新潟県

【十日町】築150年を誇る古民家——『雪の家』と絶景の棚田

今回ご紹介するのは、真夏の7月下旬に訪れた新潟県十日町市の古民家宿「雪の家(ゆきのや)古澤邸」です。150年以上の歴史を持つこの家は、宿主・井比さんの思いと地域とのつながりの中で蘇った家で、「暮らすように旅する」時間を体験できる場所でした。

滞在は、暑さに合わせた早朝のトレッキングから始まり、宿での夜、翌朝の散歩と朝ごはんへ。この記事では、その一日の流れを等身大でまとめます。

▷「雪の家 古澤邸の詳細はこちら

河上ラリーサ

こんにちは。私は現在台湾に住む大学生です。日本各地をめぐる旅を通じて、人と土地、そしてその土地に根ざす暮らしの姿にふれることを楽しみにしています。

1. 早朝の一言で始まる“トレッキング”

「今日は暑くなるので、七時前に出ましょう」。その一言で目が覚めました。真夏の新潟・十日町。古民家宿「雪の家」に泊まる前に、まず歩いてこの土地を確かめます。
「無理のないペースで行きましょう」。そう言われて、少し肩の力が抜けました。宿主でありガイドの井比さんを先頭に、トレッキング開始です。

2. トレッキング|香り・音・手触りで歩く里山

スタートは北越急行・ほくほく大島駅。猛暑の日は早出が基本。

最初の小さな神社で手を合わせて安全祈願をしてから、山へ入ります。道端の木の柱は、昔の“はざ掛け”。風景に生活の跡がそのまま残っています。

未舗装の旧道に入ると、足裏に土の弾み。木漏れ日の下でクロモジの枝をこすると、指先にすっとした香り。ブナ林に入ると空気がひんやりします。葉と土が水を抱える話を聞きながら歩くと、自然とペースが落ちました。

印象に残った話

このあたりは標高が高くないのにブナの原生林が広がっていること。豪雪地帯ゆえに、ブナが“高地と勘違いして”ここで育ったという話です。ブナの葉は落ちると腐葉土になり、スポンジのように雨水を吸ってゆっくり地中へ返す——それが地下水を育て、農業や生態系を支える。人知れず水を蓄えて暮らしを支える存在だと聞き、はっとしました。

頂上に着くと景色が開け、風に合わせて木々がざわっと鳴ります。疲れていた体に、風と空気がまっすぐ入ってくる感じ。

ここで休憩。井比さんのリュックから、やかんセットと笹団子。その場で湯を沸かし、クロモジ茶を淹れてくれました。「クロモジのハーブティー、どうぞ」。さっき採った枝はこのため。さっぱりしていて、汗が引きます。(私はアロマやハーブが好きなので、こういう“本物”は嬉しい。台湾ではやったことがない体験。)

この日は暑さが厳しく、途中で引き返して車で星峠の棚田絶景スポットへ。正直、私は体力の限界がきていたので助かりました。ほくほく大島駅から星峠棚田までは徒歩で約3時間半。体力に自信のある方は挑戦してみてください。星峠に着いたら、まずお地蔵さんにお参り。ここまでの無事と自然に感謝。

そこで井比さんが教えてくれたこと。
「この棚田は、人が手を入れるから維持できる。高齢化で続けにくいという声もある」。水鏡の時期は観光客が増える一方、景観維持と農作業の負担は地元の方によって担われています。“無料で見れる絶景”の裏側にある地域の努力と葛藤。ツアー代の一部が集落への寄付になる仕組みもあり、ただ“見るだけ”で終わらないのがいいと思いました。

感想

ただの観光では拾えない話が多かった。別の場所に行っても、背景を想像するクセが残ります。
個人的には暑さが苦手なので、夏以外をおすすめ。山歩きが好きな人は夏でも楽しめるはず。
結局いちばん刺さったのは景色より井比さんの話。写真や動画では分からない“現物”の重さがあります。

持ち物メモ(夏の里山)

  • 虫よけスプレー/日焼け止め/薄手長袖・長ズボン
  • ハイキングシューズ/雨具/タオル/500ml以上の飲み物/塩分タブレットや飴
  • 7〜9月は早朝スタートになる可能性が高いです

スポット詳細

スポット名:ほくほく大島駅
住所:新潟県上越市大島区下達
https://maps.app.goo.gl/SudvCDNywFE5qF1v6
アクセス:「十日町駅」よりほくほく線で約20分
▷星峠の棚田の詳細はこちら

3. 宿の夜|「泊まる」から「暮らす」へ

「雪の家」は1日1組。到着後、囲炉裏の跡が残るダイニングで建物の歴史や滞在の心得を丁寧に聞きます。私自身、雪国の古民家は初めて。

チェックインで約30分説明があり、正直びっくり。古民家を“博物館みたいに”案内してくれる。それ自体が体験です。建物の造り、歴史、道具の使い方まで。
ただ泊まるのではなく、この滞在で何かを受け取る——そんな考え方が腑に落ちました。雪国ならではの工夫も見られます。

例えば雁木(がんぎ)。雪が3メートルを超える十日町では、縁側にあたる場所が屋根付き通路になっていて、暮らしの知恵が形のまま残っています。

リビング上の小さなロフトでも印象的な話を聞きました。
「ここ、もともとは階段がなく、取り外し式の梯子だけだったそうです。“夜這い”対策と言われています」。
“夜這い?”と頭にハテナが並ぶ。日本の文化にも触れられるのが面白い。井比さんの話は、この宿に滞在する大きな価値だと思います。

館内には、昔の人が使っていた道具がいろいろ。これは来た人の楽しみに取っておきます。探すのが楽しいので、ここでは詳しく書きません。

夕方は囲炉裏を使うため、スーパーで材料を買ってきてすき焼きを調理。囲炉裏は初めてでワクワク。お米は新潟米を土鍋で炊き、おひつへ移す。わざわざ移す意味もここで初めて知りました。理由はシンプルで 、鍋の余熱を切って“蒸れ戻り”を防ぐ、木が余分な水分を吸ってベチャつきを抑える、木肌がほどよく湿度を調整して冷めても味が落ちにくい。結果、粒が立って、おにぎりにしてもおいしい。おひつに移すのは、日本らしいやり方で、旅館だけでなく、昔の家庭や寿司店でも当たり前で、木が余分な水分と熱を抜いてごはんをちょうどよく保つ。だから“保温”より味が落ちにくいそう。


土鍋で炊いた米の香り、おひつから立つ湯気、器の手触り。古さを残しつつ、水回りはきれいに整えられていて、不自由はありません。女性も安心して過ごせると思います。

「器は買い足さず、この家や地域から受け継いだものなんです」。
そう聞いて、茶碗の小さな傷が急に愛おしく見えました。

湯船に浸かって、トレッキングの疲れをリセット。浴室やトイレを含む水回りは清潔で、快適に過ごせました。

最後に驚いたのは入口の小ささ。必ず頭を下げて入るつくりです。宿を出るとき、井比さんが入口をすべて開けて見せてくれました。
「この小さな入口には、“入るときは頭を下げなさい”という意味があります。実は全部開くんです」。
最後の最後まで、この家に驚かされました。

4. 朝散歩|松尾神社で深呼吸

翌朝、宿から徒歩1分の松尾神社へ。早起きは正直つらかったけれど、杉林に入るとひんやりした空気と杉の匂いで一気に目が覚めました。石畳の階段を登る途中には樹齢500年の夫婦杉。見上げると首が勝手に伸びるほどの迫力。神社を抜けると田んぼの景色が開け、風の音と鳥の囀りが聞こえます。足元には茗荷や山椒など食材になる草木がふつうに自生していて、小さなカエルもたくさん。ここに来なければ感じられなかった朝の空気が、まっすぐ体に入ってきました。

5. 朝ごはん|台所の手がつくる味

散歩のあと、地元のお母さんが台所に立ってくれます。裏庭で紫蘇を摘み、一緒に手伝い。1日1組の良さがここでもよく分かります。私たちのために動いてくれる場面が多く、人とのつながりが見えてきました。

お母さんの印象

ずっと宿にいるというわけではないのに、わざわざ来て料理をしてくれる。まさに“日本のお母さん”。「どうしてこんなにしてくれるんだろう」という不思議と、嬉しさが同時にきます。

何品も手際よく用意してくれました。裏庭で一緒に摘んだ青じそを刻んで冷汁に入れると、器から立つ香りがさっきの森とつながる感じ。冷汁は初めてでしたが、体が先に“おいしい”と反応しました。次は台湾の友人も連れて来たい、素直にそう思いました。

6. おわりに|季節を変えて、また来たい

井比さんの「この地域のピュアな部分を残していきたい」という思いが、滞在全体から伝わりました。これが古民家滞在の醍醐味だと思います。
静かな朝、火の灯り、畑の匂い、杉の香り。短い滞在でも、私は“暮らした”と感じました。夏の稲の波も、冬の白い静けさも、同じ場所で全然違う顔を見せるはず。季節を変えて、また帰ってきます。

基本情報

スポット名:雪の家 古澤邸

住所:〒949-8562 新潟県十日町市安養寺170

アクセス:

上越新幹線「越後湯沢駅」➡︎ほくほく線「十日町駅」➡︎車で約15分

※十日町駅から無料送迎あり
※越後湯沢駅から別途料金でタクシー手配可能(車で約40分)

駐車場:無料専用駐車場あり

「雪の家 古澤邸」の予約はこちら:https://www.ryokan-book.com/jp/area/tokamachi/ryokan/yukinoya/ 

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