福島県

【会津】湯野上温泉 | オーナーと行くナイトツアー、女将が作る癒しの料理『まごころの宿 星乃井』

この宿との出会いは10年以上前に遡ります。ひょんな出会いからこの宿と親しくなり、プライベートでも優に50回以上宿泊している、私が最もおすすめする旅館の一つです。
価格が高いのかと言われるとそんなことはありません。むしろ安いですが、エクストリームなオリジナルツアーとスタッフのまごころが味わえる唯一無二の宿です。

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大崎庸平

こんにちは!Ryokanbookの編集長をしている大﨑です。年に100旅館に泊まり70旅館はインタビューをしています。

今回はそんな私がこの旅館という業態に関わるきっかけとなったまごころ溢れる宿をご紹介します。本当は教えたくない、まだ気づかれていないエクストリームな旅館です。

「名は体を表す」

「まごころの宿」という名をみて思い浮かぶのがこの言葉です。まごころとは「誠実さ」「温かさ」を意味し、偽りなく相手を思う心です。日本の旅館には安かろうが高かろうがこのまごころが溢れています。

しかしこの『まごころの宿 星乃井』は別格です。この体験記事は初めて星乃井を訪れた12年前の私の記憶を辿りながら、原体験の生の声をお届けしていきます。

ちなみにこの先に出てくる「お父さん=オーナー」「お母さん=女将」「おばあちゃん=大女将」となります。ご了承ください。

まごころの宿 星乃井との出会い

出会いは12年前、当時私が19歳の冬でした。東京から福島県へ約300kmの道のりを大学の友人3人と自転車で旅していました。大学生の当時はえらく貧乏で所持金が残り3,000円まで減っていました。しかし雪が降る福島県では野宿もできない。もうすぐ野垂れ死ぬかもしれないと思って、決死の覚悟で電話したのがGoogle Mapで「旅館」と調べた際に一番上に出てきた『まごころの宿 星乃井』でした。

「お金は良いから早く来なさい」

女将さんに言われた一言で、希望の光が差し込み、夢中でペダルを漕ぎました。女将さんと娘さんがボロボロの3人を迎えてくれて「大変だったわね。とにかく身体が凍えてるからお風呂に入ってきなさい」と言われた記憶があります。

2人とも笑顔で温かくて、一瞬で2人の優しさにファンになりました。寒い冬で絶望していた自転車旅だったせいか、お風呂で泣いたのを思い出しました。

雪の降る露天風呂の思い出ー湯野上温泉

湯野上温泉のお湯は弱アルカリ性単純泉で飲むことができるほど、柔らかくて優しい透明なお湯です。筋肉痛や慢性疲労への効能もあり、自転車に3日間乗り続けていて下半身に染み渡りました。

星乃井の温泉は内湯と露天風呂があり、雪が降る中入った露天風呂の景色は忘れられません。雪化粧をした山肌を眺めながら、暖かいお湯に浸かって話し込み、気づいたら1時間が経っていました。

湯野上温泉は湯量が豊富で、一般家庭でも温泉が供給されるらしく、飲料水や雪消しにも使われているそうです。温泉を雪消しに使うなんて贅沢ですよね。

もう何十回何百回とこのお湯に浸かっていますが、未だにこのお湯が大好きで定期的に入りに行きます。そういえば娘さんもみんなお肌が綺麗なのはこのお湯に浸かって育ったからなのでしょうか。

日本のお母さんの味がするー名物じゃがいも

入り口で見たラッピングバスには「畑のフォアグラ」というキャッチコピーと共に名物じゃがいもの煮物が描かれていました。じゃがいもが名物?と疑問をいただいたのを覚えています。

日本のどのレストラン・旅館を探しても、メインにじゃがいもを持ってくる場所はないでしょう、ここ星乃井を除いては。大根と高野豆腐と一緒に食べるほろほろで柔らかいじゃがいもの煮物は、甘い口溶けとともに、あっという間に口の中からなくなってしまいます。

自転車の疲れをお風呂で癒した後、スタッフの皆さんは一文無しの僕たちに「じゃがいもの煮物」やこれまた名物の「十念うどん」や「鮎の塩焼き」など惜しみもなく料理を提供してくれました。

「いやいや僕たちお支払いできないですよ」と言いましたが

「いいのいいの余り物だから、若い人があまり来ないから、たくさん食べていきなさい」

そう言いながら、お母さんと「なんで自転車にきたの?」「ここまで来るのたいへんじゃなかった?」「どこの大学なの?」と楽しく会話をしたのを覚えています。

おすすめの料理紹介

じゃがいもの煮物

星乃井の名物「じゃがいもの煮物」は外国人旅行者はおろか、日本人ですら驚きを隠せない一品です。まるまる一つじゃがいもは箸を入れるとほろっと崩れ、口の中では甘く溶ける料理です。同じ皿に乗る高野豆腐・大根も優しい味が染みていて、何度食べてもまた食べたくなる思いでの味になります。味付けは塩のみというのもまた不思議です。とにかく温かいうちにお出しするをモットーにホカホカの状態で提供されます。

この料理を開発したおばあちゃんはテレビ取材でこんな話をしていました。

「もうやめたいと思ったことないですか?」

「ないんですよ、一度来てくれるとまた来てくれるしね」

数ある料理の中でもじゃがいもの煮物だけは50年出し続けているそうです。

十念うどん

十念うどんは、おじいちゃんが考えた料理だそうです。

下郷町の名産であるじゅうねん(えごまの別名で福島県では食べると10年長生きするという言い伝えがあります)を「地産地消」として何か使えないか試行錯誤の上出来上がったのが十念うどんでした。スープは、おかあさんとおばあちゃんが、ある田舎のおばあちゃんに秘伝のレシピを教わりながら、改良を重ねて味を整えていった野菜出汁のスープ。

35年愛されている料理で「初めてのお出汁の味に、初めての麺の組み合わせだね」とお客さんには驚かれるそうです。

鮎の塩焼き

中には川魚を食べるのが苦手な方もいるかもしれません。しかし星乃井の鮎の塩焼きは別格です。私も年100旅館近く泊まり歩き、鮎を食べることが多いですが、星乃井の鮎より美味しい旅館はまだ出会ったことがありません。

まわりはパリパリでなかはふんわりで、大きいオーブンで焼く、こだわりの2度焼きが特徴です。

頭から尻尾までまるごと食べることができるので、ぜひ味わって欲しい一品です。

夜の大内宿を散歩するー星乃井だけのナイトツアー

「おいお前ら、バス乗れ〜」宿のお父さんに言われるがままにマイクロバスに乗り込みました。食後の20:00前後から突然始まるバスツアー。目的地は福島県で最も有名な観光スポット「大内宿」です。車内ではオーナーのお父さんが大内宿や湯野上温泉の説明をユーモアを交えて説明してくれます。

「夜のバスに乗って出かける、誰もいない観光地を散歩する」こんな経験をしたことありますか?僕は自転車に乗って旅する興奮とは別の高揚感を覚えました。マイクを片手に山道を運転するオーナーはとてもカッコよく頼もしく見えました。

普段大内宿は17:00までしか入れない観光地です。そのため夜の大内宿を見れるのは、そこに住む住人か星乃井の宿泊者しかいません。昼間はあんなに混んでいる大内宿ですが、ナイトツアーでは大内宿を貸切にしたような気分です(気分ではなく本当に貸切です)。

真っ暗い夜景の正体ー

あなたは真っ暗い夜景と聞いて想像がつきますか?お父さんが名付けた「真っ暗い夜景」は煌びやかな工場夜景や山の上から見る街の夜景ではないけど、どこか落ち着く自然な営みの夜景です。

茅葺き屋根の家屋が立ち並び、まるで侍のいた(江戸)時代にタイムスリップした感覚にまります。そんな趣ある観光地も、街灯はなく、店名の入った小さな提灯のような灯だけが灯っています。まるで暗い部屋につけた蝋燭のような小さい灯です。

この作られていない自然体の夜景は、見る人の心を揺さぶります。

お客さんの7割がリピーターという愛されてやまない宿 星乃井のお客さん全員が「ナイトツアー希望」と口を揃えて言うそうです。何度行っても飽きない夜景と顧客の心を掴んで離さないガイドが大きな魅力です。

地域を楽しんで欲しい一心でー多種多様なツアーが楽しめる

僕自身、星乃井に通うようになって、大内宿のナイトツアーだけでなく、鶴ヶ城の夜桜ツアー、ホタル鑑賞ツアー、ダム上での星鑑賞ツアーなどの食後のツアーを体験してきました。さらに朝も中山風穴冷風体験、蕎麦畑ツアーなど様々なツアーが季節ごとに存在します。

それも’’全て無料’’です。宿のオーナーはこのツアーを1日も欠かさず、お客さんが1組でもいれば毎日行っています。20年休まず走り続けるツアーは、お父さんの人生そのものかもしれません。

「なんでそこまでできるんですか?」

ふとお父さんに聞いてみるとこんな答えが返ってきました。

「お客さんに喜んで欲しい一心だね。お客さんが楽しかったと言ってくれたら、それだけでやったぞと嬉しくなる」

まさに、まごころ(偽りなく相手を思う心)そのものだと思います。そしてこの湯野上温泉・会津の地域の良さを知って欲しいという一心で20年以上もバスと自分の体とお客さんの心を突き動かしています。

ゆっくり布団で寝る幸せ

夕食を食べて部屋に帰ると一番驚いたのが、部屋に布団が敷かれていたことです。

日本の旅館ではお客さんが夕食を食べている間に、部屋に布団を敷いてくれるところが多いです。これは日本独特の文化なのかもしれませんが、部屋に敷かれた布団をみるといつも安心します。そして気づいたら布団の中でゴロゴロしてしまっています。

畳の部屋で布団で寝る。日本人でも家庭では消えゆく文化になっているでしょう。でも日本人も外国人も浴衣を着て布団で寝るとなぜか心が落ち着くはずです。

星乃井は和室のお部屋だけでなく、トイレ付き・和洋室・洋室などニーズに合わせた部屋も完備されております。

自転車旅で「もうダメかも」と思っていた夕方から一変、美味しいご飯と温かいお風呂、未知の体験ナイトツアーに安心できるお部屋と布団と贅沢すぎる体験をさせてもらいました。

「俺らこの宿に恩返しをしないとな」と話ながら眠りについた夜を今でも忘れていません。

出来立てが常に出てくる朝食ー大女将の哲学

星乃井の料理は「熱いものは熱いうちに」をモットーに常に出来立てを持ってきてくれます。朝食のご飯は、朝食開始30分前に炊く徹底ぶりです。これは大女将のおばあちゃんからお母さんへ受け継がれている哲学です。

大きな焼きたての鮭と山菜や納豆など健康的な和食が食べられます。会津米の炊き立てのお米と名産の蕎麦味噌、熱々の味噌汁が僕たちの身体を優しく起こしてくれます。

大学時代から朝食を食べる文化はなくなってしまいました。今も朝食を食べる機会は少ないですが、星乃井に来ると「朝ごはんってなんて素敵な時間なんだろう」と朝の小さな幸せを噛み締めることができます。

「できたて熱々で、一番おいしい状態をお客様に届けたい」
この思いもひとつのまごころの形ではないでしょうか。

涙するおばあちゃんを見て感じた旅館のまごころ

もうすぐ開業50年となる星乃井。その歴史は大女将のおばあちゃんから始まりました。実は昔(40年前くらい)同じように自転車できた青年がいたそうです。その姿と重なったのかチェックアウトでお別れの挨拶をするとおばあちゃんは泣いていました。

普段東京で暮らす僕は、田舎にはこんなにも優しくて、さっき会ったばかりの他人に心を寄せてくれる人がいるんだと感動しました。本当は僕たちが泣くべきところです。
僕たちは当時3,000円しかなくて、おばあちゃんにもお父さんにも「また来てくれれば良いから」と明るく送り出してもらいました。そこから12年が経ち、毎年いろんな仲間や家族を連れて星乃井に通っています。

記憶に残る旅はいつも「人」との記憶ではないでしょうか。

日本全国で美味しい食事を出す宿、泉質の良い温泉、広い部屋のホテルを見つけることはそう難しくありません。しかし地域の「人」との出会いは極めて偶発的です。旅館の魅力は日本人の優しさ・地域の人の優しさに触れられることかもしれません。

人のまごころに触れると、その旅は記憶に残ります。きっと『まごころの宿 星乃井』での滞在は、あなたにとって忘れられない記憶になるはずです。

「まごころの宿 星乃井」のご予約はこちら:https://www.ryokan-book.com/jp/area/aizu/ryokan/hoshinoi/

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ABOUT ME
大﨑庸平
地域観光と地域旅館が好きで株式会社Hinotoriを起業しました。以前は株式日本ユニストにて熊野古道の宿「SEN.RETREAT」を立ちあげ集客していました。「地域のまごころが報われる世界を創る」をミッションに旅館と地域観光を盛り上げたいと思っています。以前は屋内型テーマパークSMALL WORLDSやアートアクアリウム美術館の立ち上げに参画してマーケティングをしたりとマーケティング畑が長いです。新卒ではPwCコンサルティングに所属しておりました。