今回紹介する2泊3日の会津モデルコースは、ただ観光地を巡るだけではない、“大人のための贅沢な冒険”をテーマにした旅。
1日1組限定の宿で味わう、旅そのものをプロデュースしてくれる滞在。日本一の湧出量を誇る源泉で、自然と一体になるひととき。そして旅の締めくくりには、沼尻の大地を上空から見渡す体験。
どれも“ここでしかできない体験”であり、旅慣れた人ほど心に響く、深く上品な非日常が詰まっている。
王道スポットを巡るだけの旅では物足りない。究極の非日常を楽しみながら、会津の自然と文化に深く触れたい。そんな大人にぴったりの、静けさと刺激が同居するモデルコースである。
1日目: 会津の自然と歴史、そして“旅をプロデュースする宿”へ
東京から東北新幹線で郡山へ。
ここからは今夜のお宿「鶴我 東山総本山」の送迎車に乗り込み、会津の名所を巡りながら宿へ向かう。移動そのものが旅の一部になる、効率の良い1日目のモデルコースだ。
五色沼 ― 会津の自然が生む“色の景観”

最初に立ち寄るのは、会津を代表する景勝地「五色沼」。
複数の湖沼が集まり、それぞれエメラルドグリーン、ターコイズブルーなど異なる色を見せる独特の景観が特徴。天候や光の角度によって色が変化し、どの季節でも散策に向いている。ボート遊びも人気で、静かな湖面に囲まれながら過ごす時間は、会津ならではの自然の豊かさを感じさせてくれる。
※五色沼の詳細はこちら → リンク
イル レガーロ ― 地元食材を味わう本格イタリアン

散策後は、五色沼近くのイタリアン「イル レガーロ」でランチ。
自家菜園や地元農家の野菜を中心に作られる料理は、旅の途中とは思えないクオリティの高さで、会津の食材の魅力を改めて実感できる。
※イル レガーロの詳細はこちら → リンク
鶴ヶ城 ― 四季で変わる、会津の象徴

続いて訪れるのは、会津若松のシンボル「鶴ヶ城」。
桜、新緑、紅葉、雪景色……季節ごとに異なる美しさを見せ、日本らしい風景をゆっくり楽しめる。
城内には武士文化や戊辰戦争に関する資料が展示されており、歴史好きにも見応えが十分。

敷地内の茶室「麟閣」では、本格的な抹茶文化に触れられる点も魅力だ。
※鶴ヶ城の詳細はこちら
今夜のメイン:鶴我 東山総本山へ

鶴ヶ城を後にし、車でわずか数分。
東山温泉へと向かうと、ついに一日一組限定の宿「鶴我 東山総本山」が姿を現す。ここは単なる“宿泊施設”ではなく、旅全体をプロデュースしてくれる場所 として知られている。
■ ウェルカムドリンク ― “日本の物語”への入口

到着すると、まず庭園が見える茶室に案内され、抹茶のウェルカムドリンクから滞在が始まる。四季の色が映る庭、風の音、畳の香り——そのすべてが旅の緊張をほぐし、静かに心を整えてくれる。
スタッフの方はここを「ザ・日本の集大成」と表現しており、滞在の最初の一杯が鶴我の世界観へと自然に引き込んでくれる。
■ コンシェルジュバトラー ― “旅の魔法使い”

鶴我の最大の特徴が、この「コンシェルジュバトラー」の存在。ヨーロッパでは“魔法使い”として例えられるコンシェルジュと、“執事”にあたるバトラーをひとつにした役割で、旅の相談から滞在中のサポートまで全てを担ってくれる。
例えば、
- 旅の計画づくり
どの観光地へ行くべきか、移動はどうするか、食事や季節の見どころまで、ゲストの希望をもとに最適な旅程を提案してくれる。 - 送迎や移動の手配
チェックイン・チェックアウトだけでなく、周辺スポットへの移動も柔軟にサポート。土地勘がなくても安心して過ごせる。 - 滞在中のあらゆるケア
食事のタイミング調整、ドリンクや部屋の準備、細かな気配りまで、まるで専属スタッフのように寄り添ってくれる。
一日一組限定だからこそ、宿のスタッフ全員がゲストに集中できる。この密度の高いサービスこそが、鶴我が多くの高評価を得ている理由だ。
■ 客室 ― 169㎡の静寂に包まれる空間

客室は169㎡というゆとりある造り。窓の外の竹林の緑が室内のインテリアとつながるようにデザインされており、「自然と共に過ごす」感覚を味わえる。床はすべて琉球畳で、浴室まで段差なくそのまま歩ける珍しい造り。海外の方にとっては特にユニークな体験で、畳の柔らかさがずっと続く心地よさが印象的だ。

テラスに出ると竹や川の音が響き、季節によっては虫の声、冬には雪の静けさが漂う。都市の喧騒とはまるで別世界のような、圧倒的な“静寂の贅沢”を味わえる。
■ 温泉&サウナ ― 畳のまま入る半露天の贅沢

浴室には珍しい“糖質性の琉球畳”が使用されている。湯船の縁も滑らかで、裸足のまま畳を歩いて風呂へ向かうという体験自体が心地よい。窓を開ければ竹林が見える半露天風呂に。

さらに小さなサウナも完備されており、サウナで温まる→テラスで竹林ビューの外気浴という流れが楽しめる。“ととのう”時間をこうした環境で味わえるのは貴重だ。
■ バーカウンター ― 旅の夜を豊かにする、静かなご褒美空間

鶴我はオールインクルーシブ形式。地酒、ワイン、焼酎、ソフトドリンクまで自由に楽しめる。
スタッフ曰く、
「飲むかどうか関係なく、あのラインナップが“そこにある”だけで満足度が上がるんです。」特に会津の地酒は種類が豊富で、日本酒好きにはたまらない環境だ。
■ 夕食 ― 会津の文化をそのまま味わうフルコース

夕食は、会津の食文化を余すことなく堪能できる贅沢なコース。
会津こづゆ、川魚の塩焼き、天ぷら饅頭、会津蕎麦、桜鍋、旬の果物… どれも土地の味と丁寧な仕事が光る一皿ばかりだ。

そして何より、この宿の象徴が 「馬刺し」。
鶴我は、会津で知らない人はいない高級馬刺し専門店を母体に持つ宿で、そのクオリティは“全国屈指”といっても大げさではない。
なかでも驚くのは、馬のシャトーブリアンを生で提供できる唯一の場所であること。
通常、馬刺しと言えば赤身やロースが中心だが、ここではシャトーブリアン、たてがみ、レバーといった希少部位を食べ比べできる。
脂の甘さは驚くほど上品で、旨味は繊細、食感は舌の上でふわりとほどける。会津が誇る馬肉文化の“最高峰”を、一夜で体験できる。
※鶴我の詳細・体験記はこちら

暖炉の炎を眺めながら、1日の流れを振り返ると、自然・歴史・食・宿がひとつの物語としてつながっていることに気づく。旅は「どこへ行くか」だけではなく、「誰がどうプロデュースしてくれるか」で形が変わる。そんなことを実感できる、特別な1日目となるだろう。
2日目:猪苗代・沼尻で味わうエクストリームな一日

2日目は、会津若松エリアから車で約40分。
猪苗代湖の南側に広がる沼尻高原を舞台に、自然を全身で楽しむアクティビティと、静けさに包まれるロッジ滞在を組み合わせた一日を過ごす。

鶴我 東山総本山の送迎で出発し、山道を走り抜けると、森の先にぽつんと広がる開けた高原が姿を表す。ここが、今日の宿「沼尻高原ロッジ」だ。チェックイン前に、まずは隣接するアクティビティ拠点「Nowhere」で、この旅のハイライトとなる“エクストリーム温泉”へ向かう。
エクストリーム温泉 — 大自然を歩き、大地そのものに浸かる体験

「エクストリーム温泉」は、標高1,300mの山中にある秘湯・沼尻元湯を目指すトレッキングと、そこでの野湯入浴をセットにした特別なアクティビティ。ガイド同行・1日2組限定で参加できる、まさに“ここだけの体験”だ。
筆者は8月下旬と11月上旬の2度訪れた。
夏は緑の濃さが冒険心を刺激するが、秋の沼尻はまったく表情が違う。

オレンジや深い赤に染まった山肌、落ち葉の匂い、少しひんやりした空気。歩くたび、季節の終わりが静かに近づくような、どこかセンチメンタルな雰囲気が漂う。秋の気温はおよそ10〜12℃前後。標高が上がるにつれて体感はさらに低く、風が抜ける場所では 8℃ほどに感じられた。

筆者は、防風ジャケット+長袖インナー+半袖Tシャツ+スパッツ+短パンという装いで挑んだ。歩いている間は体が温まるが、立ち止まると一気に冷える。特に頂上付近は風が冷たいので、薄手の手袋やカイロがあると快適だ。

ガイドさんは道中でも親切に、季節の景色や植物、地形のことなどさまざまな説明をしてくれる。例えば、女性ガイドの方が同行してくれた際、その途中で「モンローリップ」という小さな花を教えてくれた。マリリン・モンローの唇に似ていることから名付けられたという珍しい野花で、ガイド付きでなければ気づけない小さな発見だ。

スタート地点から30分ほど歩くと、ほんのり硫黄の匂いが漂い始める。谷が開け、目的地に着くと、そこには想像の数倍スケールの大自然が広がる。谷底を温泉が川のように流れ、脇の湯口は60度近い熱を持つ。滔々と続く湯流は、まさに大地そのものが湧いているようだ。

秋は外気温がぐっと下がるため、元湯の湯温もやや低くなる。
寒い季節の方が温泉は気持ちいいと思うだろうが、実際に浸かってみるとその想像はあっさり覆される。浸かっている間は心地よいが、一度立ち上がると山の冷気が容赦なく体を冷やし、体温が一気に奪われる。

一方、私が夏に訪れたときはまったく違った。
青々とした山の緑に包まれながら歩く道のりは、汗ばむほどの気温。ただ、元湯に着いて湯に身を沈めた瞬間は、まるで体の熱を溶かしていくような心地よさがあった。湯上がりの風も爽やかで、山の中という環境が“天然のクールダウン”をしてくれる。

ガイドさんが言っていた「7〜9月が一番ちょうどいい入浴シーズン」という言葉の意味が、夏と秋の両方を体験したことでようやく腑に落ちた。
湯に身を預け、渓谷の雄大な景色を眺めていると、自分が自然の一部に溶け込んでいくような感覚に包まれるだろう。同じ元湯でも、季節によって楽しみ方がまったく変わる、そんな特別な場所だ。
そして運が良ければ、メインルートの途中にある崖下の洞窟にも案内してもらえる。温泉が流れる谷沿いのルートの途中に、崖のように切り立った斜面があり、その下にぽっかりと洞窟の入り口が現れる。見下ろすと少し怖さを感じるが、いざ降りてみると意外と簡単。薄暗い洞窟に光が差し込み、その下を温泉が流れる光景は、まるで別世界である。
※季節により危険な場合は入れない。
※エクストリーム温泉の詳細・体験記はこちら

帰り道は壮大な山並みを眺めながら進み、心地よい疲労感とともに「Nowhere」へ戻る。
そこでは疲れた体に染み渡るNowhereカレーをいただくこともできる。
ほろほろの牛肉と玄米との組み合わせも絶妙で、スパイスの旨味がふわっと広がる。外気の冷たさと運動の疲労が相まって、この一皿が驚くほど美味しく感じられるはずだ。
沼尻高原ロッジ — 森と調和する静かな滞在
※詳細・体験記はこちら

沼尻高原ロッジは、自然に寄り添うように建つ静かな宿。
かつてエベレスト登頂の女性登山家・田部井淳子氏が愛した別荘をベースに、老舗旅館が継承しリニューアルした特別な場所だ。

木の温もりに包まれたラウンジには、無料のコーヒーやワイン、地元のお菓子などが並び、高原を眺めながらゆったり過ごせる。客室は、モダンでありながら自然素材が調和した落ち着きある空間。大きな窓の外には、秋なら紅葉が揺れ、まるで森に抱かれているような感覚になる。
■ 夕食 — 季節ごとに表情が変わる“東北の和食”コース
沼尻高原ロッジの夕食は、季節ごとに構成が変わる「旬」を大切にした和のコース。
食材は福島・会津・東北一帯のものを中心に選ばれ、その土地らしい“素朴さ”と“奥深さ”を感じられるのが特徴だ。今シーズンの献立の中から、特に印象に残った4品をご紹介したい。
ひし茶の薬膳スープ

最初に供される温かい椀物。猪苗代湖の“ひしの実”を焙煎したひし茶と、舞茸・木耳・会津人参など、土地の恵みをふんだんに使った薬膳スープだ。香りは柔らかく、口に含むと優しい旨味がじんわり広がる。胃を温め、体を“食の時間”へ整えるような役割を果たす一品で、コースの幕開けにふさわしい。
まぐろのお刺身

東北の魚介は、旨味がしっかりしているのが特徴。まぐろは切り立ての状態で供され、余計な味付けをせず素材本来の甘みと清らかな香りが引き立つ。淡口醤油を添えることで、海の旨味がより一層際立つよう工夫されている。
白子料理

海外の方が驚くことも多い白子。白子とは、魚の雄の生殖腺、つまり精巣を指し、日本料理では高級食材として扱われる。だが、ここで提供される白子は別格。臭みが一切なく、とろけるように濃厚でクリーミー。白子が初めての方でも食べやすい味わいなのでぜひ挑戦してみてほしい。
煮込み焼きシチュー

和食会席の中にぽつりと現れる洋食の一皿。福島県産の牛肉をじっくり煮込んでから焼き上げることで、外側は香ばしく、中は驚くほど柔らかい。地元野菜の甘みと重なることで、心まで温まる深い味わいに仕上がっている。
どの料理も、奇をてらうのではなく“素材を理解して生かす”丁寧なアプローチが印象的だ。
その日、その季節、その土地だからこそ成立する一皿が続き、食を通して地域の豊かさを感じられる時間となる。
■ 温泉 — 高原の風とともに浸かる「沼尻元湯」直結の湯

館内の温泉は、沼尻元湯から引く源泉かけ流し。強酸性の硫黄泉は肌がきゅっと引き締まり、湯上がりは驚くほどすべすべになる。夜は露天風呂から星空が広がり、虫の声と風の音だけが響く。“自然と向き合う時間”がここにはある。
■ 夜の過ごし方 — 焚き火と星空の時間

ロッジの庭では、夜に焚き火ができる。街灯のない高原では、炎だけが夜を照らし、視線を上げれば満天の星。炎の音、冷たい空気、遠くの山の静けさ。旅の2日目をしめくくるには、これ以上ないほど豊かな時間だ。
沼尻の2日目は、“静”と“冒険”が一本の旅としてつながる日だ。会津の1日目とはまったく違う表情を持ちながら、旅全体の物語に深みを与えてくれる1日となる。自然の中で過ごし、心を整えることができると改めて気づくはずだろう。
3日目:沼尻の空へ──旅を締めくくる「エクストリームフライト」
沼尻高原ロッジで静かな朝を迎えたら、2泊3日の会津モデルコースを締めくくる特別なアクティビティへ向かう。それが、「エクストリームフライト(ヘリコプタークルージング)」。
沼尻高原ロッジのすぐ隣、アクティビティ拠点「Nowhere」の前に広がる草原が、この日の発着場所だ。フライトは10分ほど。猪苗代湖、磐梯山、五色沼(魔女の瞳)など、会津を代表する絶景を空から一望できる贅沢な体験ができる。

ロッジ前の草原で待っていると、遠くからヘリの音が近づいてくる。間近で見るヘリコプターは想像以上に迫力がある。プロペラが巻き起こす風、間近で感じる振動。普段見ることのない“機体の大きさ”に、思わず息を呑むほど。

ヘッドセットを装着して乗り込む。ゆっくりと浮かび上がり、機体がすっと斜めに滑り出すと、一気に視界がひらけ、沼尻の大地が足元に広がる。
離陸直後、真っ先に目に飛び込んでくるのは、秋の高原の圧倒的なグラデーション。ロッジ周辺はオレンジ色の紅葉に包まれているが、少し進むだけで緑が残る森が現れ、さらに進むとまた違う表情の山並みに切り替わっていく。
“たった数秒で景色が変わる”
このダイナミックさは空からでしか味わえない。

高度が上がると、猪苗代湖が視界の奥からゆっくり姿を現す。山、湖、そしてそのふもとで暮らす人々の町並み。地上では感じられない、福島の“スケールの大きさ”が一度に押し寄せてきて、思わず言葉を失うほどの迫力。
パイロットは進行方向に合わせて景色の説明をしてくれる。また英語も対応可能なので外国人の方にも安心して参加することができる。

季節によってルートはわずかに変わるが、フライトでは以下のスポットを上空から眺めることができる。(4月~11月)
- 猪苗代湖
- 磐梯山
- 裏磐梯の山々
- 五色沼(魔女の瞳)
- 安達太良山の稜線
紅葉の秋なら、山全体が赤・橙・黄色のグラデーションに染まり、
春はまだ雪の残る白と新緑のコントラストが美しく、夏は鮮やかな緑がダイナミックな生命力を見せてくれる。事前相談すれば 東京の新木場まで約2時間のフライトで直接帰ることもできる。

自然、文化、食、そして人との出会い。2泊3日の旅を通して感じるのは、会津には “上質な体験”を支える深い静けさがあるということ。
鶴我で味わう唯一無二のホスピタリティ。自然の力を全身で浴びるエクストリーム温泉。そして空から眺めた圧倒的な福島の大地。
どれも観光の枠を超え、日常の感覚をそっと整えてくれるような時間である。少し贅沢で、でも気取らない。そんな会津での旅が、あなたにとって新しい一歩のきっかけになれば嬉しい。






