メディア

「ただいま」が聞こえてくる。懐かしさと温泉で心を癒す宿 下関市「玉椿旅館」

HINOTORI

今回の記事は山口県下関市にある「玉椿旅館」です。101年も旅館を続けられた秘訣やお食事・寝具へのこだわりについて、女将の藤井さんにインタビューしました。

万人を癒す川棚温泉の懐の深さ

玉椿旅館公式サイトより引用

川棚温泉地区の、魅力を教えていただきたいです。

川棚温泉は元々湯治で栄えた温泉街なのですが、 毛利侯のような位の高い方が入られるお湯もあれば、 庶民の方が入られるようなお湯もあり、偉い方も一般の方も入れる、そんな懐の深さが魅力です。

 昨日、温泉ですごく癒されたのですが、泉質の部分での川棚温泉独自の魅力はどういうところにありますか?

泉質はナトリウム・カルシウム塩化物温泉で、鉄や硫黄のような強さはないですが、赤ちゃんからおじいちゃんおばあちゃんまで入れるといった寛容さが魅力だと思います。

温度が40度前後なので、源泉のままの温度でお入りいただける優しさもいいところですね。

玉椿旅館が大相撲と歩んだ101年間の歴史

 玉椿旅館さんは深い歴史があると思うのですが、101年間続けている一番の理由は何ですか?

最初から家族経営で代々してきていて、旅館自体が実家のようなものなので…やはり愛着があるというのが一番の理由です。

古いながらの苦労はたくさんありますが、愛情があるからこそ手もかけられるし、 家族経営という小さい単位なので、協力して守っていこうという想いがあります。

 インテリアやアメニティにすごくセンスを感じるのですが、女将さんが揃えていらっしゃるのですか?

そうです。やはり毎日毎日旅館のことをしているので、喜んでいただきたいなと思うものを用意しています。お客様に好きと思っていただけたなら、それが一番嬉しいです。 

 玉椿旅館さんの一番の魅力や推しポイントを教えてください。

やはり一番の特徴は、この旅館を始めた人が大正時代のお相撲さんだったことから、 今でも館内で大正・昭和初期の大相撲にまつわるものを色々と眺めていただけるところです。 

あとは旅館を始めて最初の頃は、横綱が誕生するたびに部屋を増築するという豪快なこともしていたので、館内全体が迷路みたいになっているんです。それもやはり歴史を重ねたからこその面白さなのかなとは思います。

女将の思い「昔のものをそのまま残したい」

ー お部屋の入口がアーチ型なのが印象的でした。デザインには、どういった意図があるのでしょうか?

入口は最初、障子だったんです。鍵もかからないので、ここ数年で新しくしつらえたところなんです。旅館なので、茶道や茶室のようなおもてなしの基本の考え方にあった、わびさびのある様式です。 なので、お手入れする際にあえて取り入れました。

 少しずつリノベーションをして内装を綺麗にしているのですか?

そうですね。私の前がおばあちゃんが営業していた時代で、 細々と営業してた時期が何十年かあったので、正直私が引き継いだ時は結構痛みも激しかったんです。
でも、またきちんとやっていきましょうということで、私が引き継ぐことになった時から、ここ数年で積極的にお手入れをしています。

 外観などは大正の趣を感じるのですが、当時のものを残しているのですか?

はい、全くそのままです。 屋根や玄関の建具にしても、そのまま残しています。あとは館内も、本当はあまり手を加えたくなかったのですが、痛みが激しいところは、泣く泣く手を入れています。基本的には昔のままを残したいなという気持ちでいます。

帰ってきたくなるおばあちゃん家のような懐かしさ

 来られるお客様はどのような方が多いですか?

どこからでも来てくださるお客様はお相撲がお好きな方や、 こういう建築に興味がある方が、よくおいでくださいます。旅館の建物を登録文化財にしていただいているので、そういう建物が見たい方も来てくださいます。

あとは、うちは4部屋しかない小さい旅館なので、そういう個人的な宿が好きだということで、探してきてくださる方や観光旅行の方もいらっしゃいます。 

ー お客様から宿泊時にお寄せいただく感想は、どのようなものが多いですか?

やはり古い様式というのが、(現代の)日常とかけ離れているので、少し前まではおばあちゃんの家に来たみたいと言われることが多かったのですが、今は全く言われないです。やはり珍しいんだと思います。100年前の建物になるので、色々と好奇心を持って、お相撲のこと、建物のこと、手延べの揺らぎのあるガラスなどに目を止めて、 綺麗と言ってくださる方が多いです。

お帰りの際には、「また来ます」と言ってくださる方がいらっしゃるので、具体的な感想ももちろん嬉しいですが、やはりその言葉が一番嬉しいです。

ー 懐かしい気持ちになって、まるでおばあちゃん家みたいに帰ってきたくなるのかもしれないですね。

皆さんがどのように捉えていらっしゃるか分からないですが、アットホームさというのはあるのかもしれないです。規模感だったり、家族で接客しているみたいなことも含めてです。

古き良きだけではない、新たな取り組み「喫茶部キハル」

ー 併設している喫茶部キハルさんはどのような意味で新しく作られたのですか?

あの場所は4年前に作ったところなのですが、それまでは、ずっと旅館経営だけをしていました。年配の人には旅館のことを知ってもらえていた一方で、世代が若い方の認知度はまだ低いように感じていました。

建物というのは人が入らないと、どんどん風化していくと、子供から大人になる過程で見てきたので、とにかく人に入っていただいたり、光とか風を通したりする機会を作らなくてはという想いで作った、立ち寄りのための場所なんです。 

キハルという名前は、旅館の名前からとりました。玉椿の「椿」を分解して、「きへん」に「春」なので「キハル」と名付けました。親から名前を一文字もらうみたいなことでしょうか。 旅館部があるので、喫茶部ということです。

地元のものを使った地元に愛される食文化

 お料理の特徴を教えていただけますか?

お料理は大女将がしているのですが、地域の新鮮な食材を選んできて、 地域のお味噌やお醤油を使って、手でこしらえるということをずっと続けています。

長年のお客様が、味が変わらないと言ってくださるので、「玉椿旅館の味」というのがあるのでしょうし、そういったところを真面目に受け継いでいきたいなと思っています。

あとは、最近この地域は物作りをする方がすごく増えていて、陶芸をしたり、ろくろで木の器を作ったりされているので、そういった器などを使ったりして最近は楽しんでいます。

ー メインに瓦そばがでてきたことに驚いたのですが、瓦そばは川棚温泉地区の名物なのですか?

そうです。瓦そばは、むかし川棚温泉で宿を営んでいた方が考案した、オリジナルの料理なんです。瓦を使っているのは、西南戦争の時に落ちた瓦をフライパン代わりにして、野菜とかお肉を焼いて食べていたという話をルーツに、そこのお宿のご主人が「何か川棚の名物になるものができたらいいな」と言って考えたものです。

あとは、毛利侯のお膝元だったという歴史があるので、当時贅沢な建材だった瓦をお料理に使うこともでき、色々とアイデアと環境が相まってできたものなんです。 今は、地元のみなさんがホットプレートで瓦そばを作ったりして、日常にも溶け込んでいます。 

地域の方に親しまれてすごく広まったお料理です。なので、観光の名物料理でもあり、みなさんに育まれてこの地域の郷土料理になっていくものだと思いますね。

寝具には妥協しない。女将の強いこだわり

 リネンを自前で縫って作っていると聞いたのですが、どういったきっかけで始められたのですか?

宿は、安心してお休みいただけることが大前提なので、気持ちがいいものが用意できたらいいなと思って手製しています。

肌触りのよいリネン素材を使いたいと思ってはじめはシーツやカバーそのものを探していたのですが、布の種類も何百とある中からちょうど良い商品を見つけるのは難しくて。

結局、布のサンプルを実際に触って確かめて、気持ちが良いものをそこから選ぶことにしました。布地を仕入れて旅館の寝具に合わせて縫っています。

 最後に、今後来られるお客様へのおすすめや、玉椿旅館さんの魅力などを教えてください。

お相撲が好き、 昔のものがなんとなく好き、文化的なものや、歴史的なものに触れたいとか、来ていただく理由はそれぞれですが、やはり旅に来るのですから、好奇心が満たされるという感じで旅館を楽しんでもらえるのが一番いいかなとは思います。 

あとは、古いものをずっと大事にしてきているので、少し日常から離れて、時間旅行みたいな感覚でゆったりと過ごしていただけたら嬉しいです。

玉椿旅館 基本情報

玉椿旅館

住所  〒759−6301 山口県下関市豊浦町大字川棚5132
連絡先 083-772-0005

公式サイト
Hinotori 宿紹介メディア

記事URLをコピーしました